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1. 電球陛下

王宮バージョンその1

ある王国の光る王様のお話。



年末も差し迫ったある夜。
官吏たちも退出し、執務室には国王とその側近のみ。
静かな部屋に、陛下の灯す明かりと、側近の声が響く。
「陛下!しゃきっとして下さいっ!!万が一、誰かに見られたら如何するんですか!!」
側近の叱咤にも、陛下の点滅は収まらない。
15から20ワットの弱々しい発光を繰り返しながら、しょんぼりと肩を落とし、だらーんと執務机に突っ伏している。

「ゆーりん…」
ぼそっと呟くも、答えてくれる愛しい声は無かった。

「……ゆーりんのお茶が飲みたい」(何処から飲むのか聞いてはいけない)
「もうヤダ。飽きた。ゆーりんが居ないとやる気出ないよ~」
先程からの陛下の点滅、ではなく呟きに、側近の怒気は上がってくる。
「正月前のお休みをお許しになったのは陛下ご自身でしょう!
夕鈴殿が戻られるまで、きちんと仕事をして下さい!!」
ぎりぎりと奥歯を噛締めながら、側近が吠える。

「……やっぱり一緒に行けば良かった…」
「なに言ってんですか!そんなこと出来るはずないでしょう!!」
いーからさっさと仕事しろやっ!というオーラを吹き出しながら、李順は尚も書類を片付けさせようとせっつくが、いかんせん、切れそうになっている(精神的にではない)陛下は、なかなか動こうとしない。
仕方なく、李順は戦法を変えた。
「……このままご政務を放り出して、城下に行かれたら、夕鈴殿がどう思われるか……。
きっと、帰って来てからの夕餉の約束も、差し入れも無くなるでしょうねぇ」
側近の呟きに、陛下の点滅が止まった。
「夕餉?差し入れ?!」
くりんっ!と電球が回った。
もとい、陛下が(多分正面だと思われる)面を側近に向けた。
「おや?そういうお約束では無かったのですか?」
夕鈴殿が出かける前に、言っておりましたが?
メガネに手を掛け、上手く表情を隠しながら、李順はそう付け加える。
陛下のワット数が40に上がった。
「夕鈴殿が帰ってくるまでに書類が片付きましたら、1日お休みを作って差し上げることも、出来そうなんですがねぇ」
もう一押し、と側近は囁く。

「…1日休み……ゆーりんとデート……」

側近の策略に嵌ってゆく陛下。
ワット数は、一気に100まで上り、部屋はかなりの明るさに包まれた。
色々と脳内で妄想、いや、予想を立てたのか。
陛下の明かりが、楽しげに光る。

「李順。本当に、この書類を片付ければ、1日休みになるんだな?」
カッと眩く光りながら、陛下が念を押す。
目にもとまらぬ早業で、眼鏡を度入りグラサンに掛け替えていた李順は、重々しく頷く。
「はい。私に二言はございません。
今現在、溜まっている書類、全て片付けることが出来ましたら、1日後宮に籠られようが、城下に遊びに行かれようが、御好きになさって構いません」
「良し。分かった」
側近の思惑に嵌った陛下は、俄然やる気になり、部屋中を煌々と照らしながら、仕事に没頭しだした。


それからの陛下は、夜中まで書類と格闘し、次の日は朝からワット数全開(最大1000W)で官吏たちを叱りつけながら、書類の山を崩してゆく。

夕鈴の宿下がりは、2日間だ。
年始の行事が始まれば、また慌ただしく、忙しない日々が続く。
その前に、1日ゆっくりできるのならば、何としても、休みをもぎ取ってやる!
と陛下はやる気を発光に変えて、昼間だと言うのに最大に光りながら、仕事を進める。

「陛下、少し光を押さえて下さい。昼間なのに、勿体ないです」
側近に囁かれながらも、陛下はどこ吹く風といった様に、発光を抑えること無く、次々と決済を進めていく。

「……普段から、そのやる気を出して下されば、ここまで書類が溜まることは無いんですがねぇ」
側近の愚痴も、勿論黙殺された。


サングラスをしても、陛下の眩さに耐えられなくなっていった官吏が、一人二人と脱落していく。
そんな中、これでもかと言うくらい、眉間にしわを寄せ、糸目になりながらも頑張っていた補佐官の柳 方淵さえもが、限界かと思われた頃には、陽もどっぷりと沈み、陛下の明るさだけが、光源となっていた。

「…今日は此処までと致しましょう。皆さん、ご苦労様でした」
側近の声に、残っていた官吏達はほっと息を付く。

無論、陛下の仕事はまだ終わっていない。
これから決済する書類は、周囲の机に山積みだ。
官吏達が退出していく中、陛下はひたすら書類を読み、書名、押印をしていく。

「…李順。書類の量が減るどころか、増えていないか?」
チカリと光りながら、陛下が書簡に手を伸ばしつつ、側近に突っ込んだ。
「いいえ?昨日から別室に有った、決済待ちの書類をお運びしただけです」
「……………」
何食わぬ顔で、しれっと言い切る側近を、光って威圧する。
「さっさと片付けないと、宰相が書簡を持って来られますよ。
私も、そちらはどうしようもありませんからね」
側近の脅しに、手を動かしながら、陛下は今後の確認をする。
「……夕鈴が戻るのは、明日の午後だったな?」
「はい。陽のあるうちに、戻ってくることになっております」
「……ならば、私の休みは明後日の朝から丸1日だ」
「ええ、構いませんよ。この部屋の書類、全て処理が終われば、問題ありません」
側近の言葉に陛下は頷くと、猛然と筆を動かし始めた。
書類に集中しているためか、ワット数は40に下がっている。
「…ふぅ。このくらいがやはり、丁度いい明るさですね」
いつもの眼鏡に戻し、手元の資料に目を通す側近が、口の中で呟いたのは、陛下には聞こえなかったようだ。

深夜になっても、陛下の手は止まらない。
側近も退出し、静かになった政務室で、黙々と作業を進めていく。
書類の山は、徐々に崩れ、あと2山といったところまできた。
そんな処に、ひょっこり隠れない隠密、浩大が現れた。
「うっわー!陛下ってば、真面目に仕事してる?!」
うぷぷ、と口元を押さえながら、身軽な動作で、窓辺に現れた隠密に、陛下は鋭い光を放った。
「夕鈴はどうした?」
「あーお妃ちゃんは、今日はもう就寝しました。
朝から晩まで、家中の掃除だ片付けだ買い出しだと、走り回って、元気いっぱいだったよ」
浩大の報告に、ふっと陛下の明かりが和らいだ。
「そうか。私の妃は相変わらず飛び跳ねていたか」
「それはもう、ぜんっぜん、じっとしてないっすよ」
下町での夕鈴の事を、あれこれと報告する隠密に、陛下は手元にあった酒を放った。
「おっ!やった」
にぱっと笑い、浩大は上物の酒に口をつける。

「明後日は、私は1日休みだ。邪魔は許さんからな」
言外に、周囲の警戒を怠るな、との命令に、浩大の片眉が上がる。
「へえ?よく李順さんが許したね?」
「今此処にある書類を全て片付けたら、1日休みを作ると言ってきたからな」
「……なるほど…」
「明後日はお嫁さんと1日二人で過ごすんだー♪」
いきなり小犬モードになり、うきうきと光りながら、陛下は筆を動かす。
「それは、良かったデスネ」
ご機嫌な陛下の様子を確認し、酒を飲み終えた浩大は、
「んじゃ、お妃ちゃんの警護に戻りまーす」
来た時同様、音もなく闇の中に消えていった。

その後も陛下は黙々と書類を片付け、夜明け前に、見事残りの山を崩しきった。

午後には、夕鈴が後宮に帰ってくる。

夜明けまでの短い時間、陛下は夕鈴との休みをどう過ごそうかと思いながら、消灯し、束の間の休息を取った。



睡眠時間は短かかったが、朝から陛下は電力…ではなく気力が充実しているようだ。
朝議の時間は、300W程に抑え、大臣達と遣り合い、その後の仕事も、効率良く捌いて行く。
比較的穏やかに、時間が過ぎる。
今日はこのまま何事もなくいくか、と官吏達が思い始めた午後。
その知らせは、一気に王宮をブリザード地帯へ落とした。


いつもの執務室の午後。
すっと李順に近づいた侍官が、何やら手紙らしきものを手渡した。
それを、視界(勿論360度)の端で確認していた陛下は、報告書を見ながらも、神経を向けていた。
その侍官が、夕鈴と共に戻るはずの浩大だというのに、気づいていたからだ。
何事もなく下がって行った浩大の存在を認知しながら、既に頭はお嫁さんの事を考える。

夕鈴が戻ったのか。

陛下の光が少し和らいだ。
だが、側近の眉間に、微かにシワが寄ったのを見て、何か問題が起こったのかと察した。
すぐさま席を立つ。
李順が気づいて呼びとめる前に、さっさと奥の部屋へ移動した。


人払いをして部屋に入り、ドアを閉める。
同時に、何処からともなく浩大が現れた。
「夕鈴に何かあったのか?!」
鋭い光を放ちながら、陛下は短く問い詰める。ワット数も、それに釣られて上がる。
だが、優秀な隠密は何時でも主をからかう事は辞めない。
「いや~。お妃ちゃんはいたって元気。何にも問題ありません」
「では、何だ。一緒に戻ってきたのではないのか?」
「うーん。それがねぇ」
浩大は、困ったように笑いながら、視線を泳がせる。
「李順さんに渡した手紙に書いてあるんだけど…」
「云え」
端的な主の命に、逆らうのは危険だ。
いつ1000Wの光線を浴びせられるか分からない。

「あ~昨日の夜から、弟君が熱を出しちゃって。今朝もまだ少しだるそうだってんで、心配だから、もう一日お休みが欲しい、と……」
隠密の報告に、フリーズする陛下。心の動揺が思い切り頭、いや、光彩に出ていた。
ちかちかと瞬く陛下に「おーい陛下。大丈夫っすか~」と安全な距離を保ちつつ、隠密が声を掛けるも、返答などない。

夕鈴が、帰ってこない……。

今朝方まで、一心不乱に仕事をこなし、休みのプランを練っていたところに、この結果。
明日のお嫁さんとの1日ラブラブ休暇(陛下の独断)に暗雲の兆し。

だが、狼陛下がこんなことでへこたれていては、無駄に消費電力が上がるだけだ。
素早く状況を判断し、次の手を打つべく、脳内で予定を立て直す。
カッと頭を光らせながら、浩大に確認をする。
「弟君の容体は、酷い訳ではないのだな?」
「そーっすね。治りかけなんで、大事を取って、寝てるだけって感じかな。
お妃ちゃんが、過保護だからねぇ。あれこれ甲斐甲斐しく世話焼きまくってました」
「………」
陛下の機嫌が降下してくる。鋭い光が目に刺さるようだ。
そろそろグラサンを取りだした方が良いだろうか、と浩大はそっと懐を確認する。
「…仕方ない。では、明日の朝迎えに…」
陛下としては、自分の中で、何とか折り合いをつけようとしたらしい。
が、それもあっさり打ち砕かれた。
「あ、お妃ちゃんから伝言デス。『陛下は絶対、下町に来ないで下さい』だって」
夕鈴が言うには、青慎の風邪は大したことはないが、万が一にもうつったら大変だし(電球が風邪を引くかどうかは考えない)自分は明日の朝には戻るので、来る必要性は無いだろう、ということらしい。
だが、本当の本音は、ご近所に電球頭の人間を目撃されたら、どう対応して良いのか困る、といったところだ。
面倒事は、極力避けたいのが人としての心情だろう。
「『もし、陛下が汀家に現れたら、今後一切、おやつも夕餉も作りません!』だそうデス」
浩大を通しての伝言に、陛下の電力は、一気に下がった。
10W、と云ったところか。
「………ゆ~りん…………」
がっくりと肩を落とし、ショボイ光を瞬かせて凹んでいく陛下の姿は、傍から見ていると面白い、と浩大は口元を押さえ、楽しんでいる。
が、八つ当たりされても溜まらないので、秘密兵器を取りだした。
「こっちは、遅くなるお詫びってことで、お妃ちゃんから預ってきました~」
浩大が何処からか取り出したのは、小ぶりな布の包み。
数歩の距離を、一瞬で縮めた陛下が、隠密の手から、素早く奪い取る。
包みを開けると、まだ暖かいおまんじゅうが、竹籠の中に収まっていた。
小さな紙片が添えられている。
―――――陛下へ
     戻れなくて、ごめんなさい。 明日の朝には必ず戻ります
     お仕事頑張って下さい。お食事は、きちんと取って下さいね
                               夕鈴―――――

陛下のワット数が、一気に50に上がった。
「……仕方ないな。今回は、妃の帰りを待つとしよう…」

珍しく、陛下が大人しく引き下がった。
(すげえっ!陛下が譲歩したよ!!お妃ちゃん効果絶大!!)
浩大は腹と口を押さえて、笑いを堪える。

「浩大。明日の朝一で、確実に夕鈴を連れ帰ってこい」
おまんじゅうを抱きしめ、ほんわか光っていても、声は狼陛下だった。
休みは明日だ。
今夜から、夕鈴とゆっくり過ごせるとうきうきしていた所を挫かれたが、休みが無くなった訳ではない。
陛下は気を取り直して、今日の政務を片付けてしまう事にした。
お嫁さんに、頑張って、と言われたからには、やるしかない。

その後の陛下は、鬼気迫る勢いで―――時々ワット数が急上昇もして、官吏が脱落していったが―――政務を進め、夕方には後宮に帰って行った。


翌朝―――――
日の出前から、陛下は起きだしていた。
「ゆーりん、まだかな…」
そわそわと部屋をうろつきながら、陛下は今日の予定をあれこれ考える。
朝餉を一緒に出来るだろうか。ご飯の後は、庭を散歩しようか。
昼餉は外で食べるか。いっそ、城下に繰り出そうか。夕餉は夕鈴に作って貰おうかなぁ。
などと、ほわほわ頭を光らせながら、脳内シュミレーションを繰り返していた。

夕鈴の出入りは、後宮奥の、町に近い小さな門だ。
そこから陛下の部屋、夕鈴の使っている部屋へ行くとなると、そこそこ時間が掛る。
夕鈴が戻ってきたら、まず、老師の所で妃衣装に着替えるので、その間に、浩大が
報告に来るはずだった。

陽が昇り、外が大分明るくなってきた。
人が動く気配があちこちでし始める。
だが、まだ浩大は姿を見せない。
……何かあったのだろうか…。
陛下の我慢がそろそろ限界になってきた頃、待ちかねた報告が来た。
「陛下~起きてる~?」
気配で分かるだろうに、そんな声を掛けつつ、浩大が現れる。
「遅い」
「うわっ。もう準備万端っすか」
「夕鈴は?!着替えているのか?」
陛下は早速、老師の部屋に向かおうと、部屋を横切りながら、問いただすが、隠密からは即答が無い。
「浩大?」
「あ~えーっと、お妃ちゃんは、ただ今お着換え中デス。ちゃんと帰ってきています」
自分の望んだ答えのはずなのだが、何か含みのある口調だ。
だが、陛下にとって夕鈴が間違いなく帰ってきたのが分かれば、問題ない。
予定通り、朝餉から一緒に過ごせる、と速効で夕鈴を迎えに行こうとした。
浩大は任務完了とばかりに、さっさと窓から姿を消す。

だが、部屋を出ようとした陛下の元へ、あり得ない存在がやってきた。

「おはようございます。陛下」
今日もきっちり髪を纏め、眼鏡のレンズには、曇り一つない。
端を陛下の電光にきらりと反射させ、有能な側近は、折り目正しく礼を取る。
「……こんな朝早くから何用だ、李順。今日は私は休みだ」
一気に不機嫌モード、鋭い光彩100Wで、陛下は威嚇する。
「はい。それは承知しております」
対する側近も、負けてはいない。
「では、何だ」
「周宰相が、大至急、陛下の決裁を頂きたい書類があるとのことで、政務室にてお待ちしているそうです」
「………私は、今日、休みのはずだが…?」
「仕方ありませんでしょう?確かに、昨日の決裁書類も全て処理は終わっておりますが、宰相の持ち込まれる書類は、私も管轄外なのですから、どうすることも出来ません。
ただ、宰相が『大至急』と仰るのですから、重要な内容かとは思いますので、ここはお出まし頂きたく、お迎えに上がりました」
つらつらと言い繕う側近に、陛下の鋭い光線が浴びせられる。

王と側近との間に、緊迫感の漂う中、陛下の待ち望んだ存在がやってきた。
「失礼致します、陛下。起きていらっしゃいますか?」
その声に、直ぐ様陛下が反応した。
直前の緊迫感は跡片もなく消え、ぱあっと明るく輝く陛下が、待ち望んだお嫁さんを出迎えた。
「ゆーりん!お帰り~!!」
妃衣装に身を包んだ夕鈴に抱きつき、煌々と光る陛下に、夕鈴が慌てて距離を取ろうと
手を突っ張る。
「へっ陛下。いきなり抱きつかないで下さい!」
「え~。やっと帰ってきたお嫁さんに会えて嬉しいって、表現したかっただけだよ」
「私はバイトです!そもそも、そんな表現する必要ないですよね?!」
「そうですね。そんなことをする必要は、まったくございません」
「あ、李順さん。ただ今戻りました。すみません、予定より長くお休みを頂いちゃって」
陛下に捕まったまま、夕鈴は上司への挨拶をする羽目になった。
「いえ、弟君の方は、もう宜しいのですか?」
「はい。お陰様で、軽い風邪だったようで、直ぐに熱も引きましたし、もう大丈夫です!」
「そうですか。では、これから年始まで、忙しくなりますから、貴女も体調には充分に注意して、お仕事に励んで下さい」
「はい!頑張ります」
側近とお嫁さんとの遣り取りに、むすっと黙ったままだった陛下が、割り込む。
「李順。宰相からの書類は、後で目を通しておくから、私の部屋に運んで置け」
夕鈴を捕まえたまま、陛下は李順を追い払おうとするが、側近も簡単には引き下がらない。
「陛下。処理が進まなくては、官吏が困ります」
陛下を何とかしろ、と利順は夕鈴にアイコンタクトを送る。
それを受けた夕鈴は、ごくっと咽喉を鳴らすと、陛下の腕から逃げようと、ジタバタしながら云い募る。
「陛下、ご政務があるのでしたら、早く行ってきた方が良いです。宰相様をお待たせするのも悪いですし」
「え~。夕鈴まで、そんなこと言うの?僕、今日1日お休みなんだよ?
昨日まで、一生懸命書類片付けて、頑張ったんだよ?」
しゅーんと光を萎ませながら、陛下はお嫁さんに泣きつく。
だが、お仕事大事!の夕鈴には、効かなかった。
「陛下。周宰相様が、大至急、と仰られるということは、国にとって、とても大事な事なのではありませんか?
バイトに構っている暇があるなら、お仕事を優先して下さい!」
「そうです、陛下。夕鈴殿の言う通りです。何も、1日掛るとは言っておりません」
夕鈴の言葉を後押しし、李順も陛下を動かそうと連携を取る。
「………夕鈴。朝ご飯は、食べてきた?」
項垂れたままの陛下が、小さく点滅しながら夕鈴に聞く。
「えっと、青慎の朝ご飯を用意しながら、軽くだけですけど…」
「………」
一緒に朝餉、の予定は立ち消えた。
陛下のワット数が、また少し下がったようだ。明るさが落ちた。
「陛下がお仕事している間に、私も少し、お掃除バイト頑張りますから、お仕事が終わったら、一緒に庭でも散歩しましょうか」
何とか、仕事に行かせようと、夕鈴は言い募る。
「……うん」
渋々、と言ったように、漸く陛下が頷いた。
ナイスです、夕鈴殿!と側近が思ったかどうかは分からない。
だが、陛下が頷いたことで、この先の動きは決まった。
「では、陛下。早速政務室までお願いします。夕鈴殿は、一旦部屋へ下がって頂いて結構です。老師の所で掃除をするもよし、御好きになさって下さい」
最後はやや投げやりになりながら、李順は陛下を引きずるようにして、部屋を出て行った。
それを見送った夕鈴は、言われた通り、一旦自分の部屋へ戻ることにした

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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

1. 電球陛下

王宮バージョンその2

続きです。





ある王国の光る王様のお話






政務室では、宰相の纏うドヨドヨ空気と、陛下の鋭い最大電力(くどいようだが1000W)の光線がぶつかり合っていた。
近くに居る李順は、濃い目のサングラスをかけ、目を伏せて、息苦しいのを耐えるだけだ。
陛下の光はかなり強いが、宰相も負けじとドヨドヨ結界で対抗している。
危うい均衡を保ちながら、決裁書類が捌かれていく。

夕鈴と散歩。夕鈴とご飯。夕鈴とデート。

陛下の処理能力を最速にしているのは、脳内(フィラメント?)の、この呪文だ。
既に陽は高くなり、お嫁さんと過ごす時間は、刻々と過ぎてゆく。
新たに陛下の元へ書類を提出しようとする官吏には、カッと光線を浴びせ、撃退する。
見かねて李順が書類を受け取り、内容を確認しつつ、明日の仕事として整理した。

陛下にとって、予定外の仕事が漸く片付いた。
何とか、昼前には決着がついたが、1日のほぼ1/3を費やした。
「今日はもう何もしないからな!私はこの後、妃と過ごす。邪魔は許さん!!」
きつい口調で云い切ると、陛下はさっさと後宮へ足を向けた。
残された側近は深々と溜息を付き、宰相は特に予言を告げるでもなく、黙って自分の執務室へと下がって行った。


陛下は一目散に後宮へ向かう。
漸く、夕鈴とゆっくり過ごせるのだ。少しでも早く、と急く気持ちが足の運びに表れる。

夕鈴の部屋の前に着くと、女官が控えていた。
「妃は中か?」
陛下の冷ややかな光に、女官は縮こまって、礼を取る。
「いえ、お妃様はただ今、西のお庭に出ていらっしゃいます」
女官の返答に、陛下は無言で外に出た。
西側は、秋を表した庭だ。今時期は、肌寒さを感じさせるだけの、寂しい風景が広がっているだけのはず。
そんなところに行っているとは、夕鈴の興味を引くようなものが、何かあるのだろうか。

西の庭に近づくと、微かに人の声が聞こえてきた。
何やら楽しげな雰囲気が感じられる。
陛下は静かに近寄った。
低い植込みの向こうに、侍女と楽しげに話す夕鈴の姿があった。
目の前には、橋の架かった、やや大きめの池。
そこに、数羽の渡り鳥がいた。どうやら、餌を与えていたらしい。
鳥を驚かせないように小さな声で、でも、楽しげな夕鈴の笑顔に、陛下のささくれ立った気持ちが静まっていく。


「妃よ、此処に居たのか」
そっと近付き、背後から抱き締めるように腰に手を回す。
いきなりの事に、夕鈴はかなり驚いたものの、何とか奇声、もとい悲鳴を呑み込んだ。
「陛下っ!お仕事は、終わられたのですか?」
くるりと後ろを振り返ると、ほわほわと輝く陛下が、機嫌良さ気に頷いた。
「ああ、急ぎのものは、全て片付けた。今日はもう、何もない。君とゆっくり過ごすことができる」
「それは…ようございました」
侍女の手前、夕鈴は一生懸命妃演技をする。
陛下が眩しくて、やや顔を眇めてしまうのは、これだけ至近距離であれば、仕方ない。
「渡り鳥、か」
「はい。数日前から、ここに居るのです。餌を啄ばむ姿が可愛らしくて…」
厨房から、ご飯のあまりを貰い、毎日与えているのだという。
もう少し寒くなったら、また飛び立っていくと、庭師に教えて貰った、と夕鈴は番いの鳥を見ながら説明する。
「遠くまで飛ぶには、体力も要るでしょうし。次に飛び立つまで、私が出来る事は、餌を与えてあげることくらいですから」
「我が妃の優しいことだ。だが、その優しさは、夫には向けてくれないのか?」
「へ?」
「折角休みを取ったというのに、夫を放り出して、鳥に夢中とは、些か冷たいのではないか?」
「そっそんなことは…!きゃっ!」
慌てる夕鈴を、陛下は軽々と抱き上げると、部屋に向かって歩き出した。
「へっ陛下?!どちらへ?あのっ歩けますから、降ろして下さい~」
ジタバタともがく夕鈴をがっちりと捕まえ、陛下はそのまま歩みを進める。
久々の(といっても、たったの2日半だが)お嫁さんの感触に、陛下はすっかりご満悦だ。
「昼餉は、まだだろう?鳥には餌を与えて、自分は無しか?」
からかうような陛下の口調に、うっと夕鈴は詰まる。
「陛下も、まだですよね?」
「ああ。だから、久しぶりに、一緒に食事をしようではないか」
「はい、陛下」
抱きあげられたまま、顔を袖で隠し、恥じらうような妃の姿に、後ろから従う侍女達は、にこにこと楽しげだ。
例え、陛下が眩しくて、袖で顔を覆っていたのが真実だとしても、云わなければ分からないものだ。

昼餉は妃の部屋で取ることになった。
といっても、夕鈴は陛下がどうやって物を食べているのか、見たことが無い。
正直にいえば、見るのが怖い。
なので、過去に何度か一緒に食事をした事はあるが、いつも視線は下へとそらされていた。
そしてそれは、今日も同じだ。

妃と二人でゆっくりしたい、と陛下は給仕の女官達を下げてしまった。
「ごめんね、ゆーりん。本当は、朝からお休みのはずだったのに。いきなり仕事が入っちゃって…」
20Wでほわほわと光る陛下に、夕鈴はいつもの名台詞を言う。
「いえ、お仕事は大事ですから!きちんとやらないと、後で大変なのは陛下ですし」
「…うん。でも、朝から夕鈴と庭を散策したり、午後は下町に遊びに行こうか、とか
色々考えてたのに、すっかり予定が狂っちゃったよ」
「それは、でも、仕方ないですよ…。ていうか、下町に行こうとしてたんですか?!」
「うん」
陛下は勿論、と言うように、光った。
「そんなホイホイ王宮抜け出して、李順さんに見つかったら、また何時かみたいにお仕事ぎゅーぎゅーに詰め込まれますよ」
そして、夕鈴にもとばっちりが来るのだ。
それは是非とも遠慮したい。
第一、そんな光る頭で街中に出るなど、言語道断だ。
絶対に一緒に行動したくない!
「え~。街で夕鈴とデートしたかったのに」
しゅん、と陛下の光が弱まる。
「陛下、折角のお休みなんですから、何かしたい事とか、ないんですか?」
しょぼい光になった陛下に慌て、夕鈴は何とか話題を逸らす。
「……したい事…」
「ええ!今日はお天気も良いですし、午後からまた、庭の散策に行くのも良いですし。
それとも、読書とか。あ、気分転換に、訓練場に行かれるとか…っ」
「……折角の休みなのに、夕鈴は僕と一緒に居たくない…?」
さらにワット数の下がった陛下に、わたわたと慌てながら、夕鈴はなんとか打開策を探す。「いえ!そんなつもりじゃ…。ただ、普段お仕事でお疲れなのに、お休みまで私に付き合う事はないんじゃないかと」
「…我が妃は冷たいな。折角の休みだからこそ、愛しい妃と過ごして癒されたいと思う私の気持ちは分かって貰えないか」
いきなり切り替わった陛下に、夕鈴は尚更慌てる。
何故いきなり狼モードなの~っ?!
「えっとえっと。そうではなく!そそそそそれでしたら、やはり午後からは、御庭を散策しましょう!!
ええ、奥の庭が、冬囲いも済んで、綺麗だそうです!!」
ぐるぐると目を回しながら云い切った夕鈴だが、その案は却下された。
「それも良いけど…僕、夕鈴と料理作ってみたいなぁ」
またもや小犬に戻り、とんでもないことを言い出した。
「へ?料理…ですか?」
「うん。ダメ?」
ほわほわと光りながら、陛下がおねだりする。
「えっと…でも、いきなりだと、厨房の方でも困るんじゃないかと…」
多分、午後からは、今日の夕餉の支度がされることだろう。
だが、我儘勝手な陛下には、通用しない。
「え、大丈夫だよ。厨房にある材料で、ご飯作れば、それが夕餉になるでしょ?無駄は出ないよ?」
期待を込めて、陛下がピカピカ光る。
夕鈴は、眩しさに負けた。


陛下に押し切られ、結局二人で夕餉を作ることになった。
厨房で下準備をしていた料理人は追い出され、夕鈴は申し訳なく思ったが、陛下の我儘に、誰も逆らえなかった。

「色々あるけど、何作ろうか?」
陛下がウキウキと発光する。30から40Wを行ったり来たりと忙しない。
「そうですね…。お野菜が豊富ですから、炒め物やスープが良いですかね。
あ、魚介もありますね。帆立と海老と野菜で…八宝菜と、白菜とお肉メインで、蒸し餃子にしましょうか。それと…スープの具は……お魚も………」
食材と向き合いながら、夕鈴はぶつぶつと呟き、献立を考える。
「ねえねえ、ゆーりん。フカヒレとか、アワビもあるよ。
あ、ツバメの巣がある。これでスープ作ろっか」
さらっと高級食材を上げて、ぽいぽいと調理台に並べてゆく。
「ちょっ!ちょっと待って下さい陛下っ!!」
慌てたのは夕鈴だ。
そんな高級食材、料理するどころか、触ったこともない。
どうやって処理してよいかも分からない物を、出されても困る。
「陛下。そんな貴重な物、私には扱えませんから、それはプロの料理人さんに任せて下さい」
「え~。どうせなら、試してみない?」
陛下は唆すが、夕鈴は乗らない。
「駄目です!もし失敗したら、折角の材料が勿体ないです!」
「でも、こんなにあるし……」
「一つ一つ、苦労して採取されたものなんですよ?大事に扱わないと、罰が当たります」
めっ、と子供を叱るように言い聞かせる夕鈴に、陛下は仕方ない、と折れた。
そんなこんなで、あれこれと食材を選び、日頃夕鈴が慣れ親しんだ物で、何時もの庶民料理を作ることになった。

食材を切る。捏ねる。混ぜる。包む。炒める。焼く。煮る。蒸す。
陛下にやり方や手順を説明しながら、夕鈴は下ごしらえをし、手際良く作業を進めて行く。
が、一つやるにも陛下がいちいちチョッカイを掛け、時に狼陛下で掻きまわしてくる。
陛下の暴走は、止まらない。

そして、決定的な瞬間が、やってきた。

「………陛下っ!いい加減にして下さい!!!」
あれこれと邪魔をして、自分を翻弄していた陛下に切れた夕鈴が、ギッと睨む。
「―――ゆう…」
陛下が、しまった!と思った時は、既に遅かった。
「陛下のバカっ!!!」
夕鈴は叫ぶと同時に、咄嗟に手にしていた物を陛下に投げつけ、厨房を走り去った。


兎に逃げられ、後に残されたのは、袋の中の生ごみを頭から被った陛下の姿。
ずる…、と袋と生ごみが滑り落ちる。
陛下の足元に落ちた時、カツ、と硬質な音がした。
と同時に、ぴき、ぱりん…と言う音が響き、一気に室内が暗くなった。

「陛下~?大丈夫っすか~?何だかお妃ちゃんが逃げ去って行きましたけどぉ」
優秀な隠密は、出来る事なら関わりたくないと思ったが、急に部屋は暗くなるし、夕鈴はバタバタと走り去って行くしで、仕方なく、中に声を掛けた。
そして、やっぱり放って於けば良かった、と後悔した。

自分の眼に映るのは、生ゴミまみれになり、罅が入り、割れてしまった頭を項垂れさせて、どよん、と立ちすくむ主の姿。
あ~こりゃ浮上するまで時間が掛りそうだなぁ。
などと、頭の隅で冷静に判断しながら、浩大は陛下に近づいた。
「あ~っと。とりあえず、換えの頭と着替え、李順さんに持って来て貰いますか」
「………」
「陛下ー? 聞こえてます?」
「……さっさと持って来い」
うわ、さすが我儘大王。とは口にしない浩大。
「は~い。ちょっと待っててね」
浩大は、身軽に窓から飛び出して、側近の元へ走った。

その後、浩大から事情を聴いた側近が換えを抱えて現れ、交換を済ませると、そのまま長い説教タイムに突入した。
その間、陛下は一切口を開かず、5Wの豆電状態で凹んでいた。

当然、夕餉は出来ず、中途半端な厨房で、急遽料理人が対応したのは言うまでもない。


こうして、陛下の休日は済し崩しに終わった。



翌日。
夕鈴は昨日のことを思い出しながら、庭を散歩していた。
陛下に何かを投げつけてしまった後、部屋に逃げ帰り、人払いをして寝室に籠った。
夜に陛下が来たが、気分が悪いと追い帰してから、今日はまだ会っていない。
色々思い返すに付け、夕鈴はしゅん、と落ち込んだ。
あれこれ翻弄され、腹が立ったとは言え、陛下に物を投げつけるのはいけなかった。
何を投げつけたかまで、覚えていないが、結構重かった感触は残っている。
やはり、ここはきちんと謝ろう、と夕鈴は結論を出した。
思い立ったら、直ぐ行動に移るのが夕鈴のらしい所だ。
陛下は今時分、政務室に居るだろうか、と足を向けようとした。
が、考え事をしながら歩いていたので、今自分が何処にいるのかと、ふと辺りを見回す。
「…ここは…?」
夕鈴が迷い込んだ場所。
どうやら、後宮内でも、端の外れであり、木で覆われ、現実から切り離されたような場所
だった。
人の気配もなく、何やら異様な空気を感じる。
後ろに従ってきた侍女達も、何やら恐れているような感じだ。
「お妃様。この先は、お妃様のご覧になるような物は、何もございません。
そろそろお部屋にお戻りになられませんか?」
いつもは夕鈴の好きなようにさせてくれる侍女が、引き留める様に言う。
「…この先には、何があるのですか?」
何やら物々しい感じを察しながら、夕鈴は問いただす。
「…それは……」
よほど言い難いことなのか、侍女はなかなか口を割らない。
夕鈴は、自分の眼で確かめようと、足を踏み出した。
「おっお妃様!」
侍女達が声を掛けるも、夕鈴は黙って突き進む。

突き進んだ先には――――― 墓地らしき、広場。
小さく簡素ながらも、整然と石が組まれ、綺麗に並んでいる。

これは、墓、で良いのだろうか。もし墓だとしたら、誰のものだろう。
何故こんな所に葬られているのか。
夕鈴は言葉もなく、立ち竦んだ。

夕鈴の居る所から一番近い場所に在る墓が、どうやら一番新しい物のようだ。
そっと近付き、じっと見るが、特になにか特徴がある訳ではない。

些か途方に暮れかけたところに、後ろから声が掛った。
「ここに居たのか」
「陛下……」
 夕鈴が振り返ると、そこにはいつもより少しだけ明かりを落とした陛下がいた。
侍女は早々に下げ、夕鈴に近づく。

「これは…歴代の墓、なのでしょうか」
まさか王様の墓がこんな所にあるとは思っていなかったが、もしかしたらもしかするのだろうか。
夕鈴は、半信半疑で、そっと窺うように聞いた。
「ああ」
陛下の返事は完結だった。
夕鈴は、真新しい墓標の前に屈むと手を合わせた。
「お父様の、ですか?」
「いや」
「では、お兄様?」
「昨日の私の、だ。」
「∑(゚Д゚)」

陛下の答えに、夕鈴は咄嗟に声も出ないくらい驚いた。
「…き…昨日の…と、言う事は……あの…あの後……」
夕鈴に、嫌な予感が襲ってくる。
もしや…まさか…いや、でも、もしかすると…。
だらだらと嫌な汗が流れる。
「いや、君のせいじゃない。あれはもう、寿命だったんだ。
ほら、政務で結構激しく消耗しちゃったから」
慌てて陛下が弁明する。
ここでもし、今足元に埋められている物がこうなった原因が、昨日の帆立貝が当たったせいだと知れたら―――夕鈴のことだから、思いっきり気にして、凹んで、泣いてしまうかもしれない。
「……本当ですか…?」
既に涙目で、上目使いに見上げてくるお嫁さんが、可愛い。
「うん、本当。だから、夕鈴が気にすることは無いよ」
なだめるように、陛下がほわほわと光る。
「……はい。陛下、昨日はごめんなさい。陛下に物を投げつけるなんて……あの、お怪我はしませんでしたか?!私、あの時もう何だかいっぱいいっぱいになっちゃって、つい無意識に、手元に在った物を投げつけてしまったみたいで…!」
「大丈夫!何ともなかったよ。僕の方こそごめんね。あれこれ邪魔して、結局無駄にしちゃって…」
「いえ!私が悪いんです」
「ううん。夕鈴は悪くないよ。じゃ、これで、仲直りだね」
「……はい」
「うん。良かったー。お嫁さんと喧嘩したままじゃ、嫌だもんね」
さっきまでのしょぼさは何処へ行ったのか。
陛下は煌々と光りながら、夕鈴を連れて、部屋へ戻った。

だが、そのままお嫁さんとお茶タイム、を目論んでいた陛下を待っていたのは、眼鏡をきらりと光らせた側近だった。
「陛下!まだ仕事は始まったばかりですよっ!!」
まったく、油断も隙もない!と李順は容赦なく陛下を引きずってゆく。
「ちょっと待てっ、李順!」
「書類は待ってくれないんですよ!また、宰相閣下と耐久政務をされたいんですか?!」
ずるずると引き摺られてゆく陛下を、夕鈴は為す術もなく、見送った。

この後、暫く国王夫妻の厨房使用禁止令が、側近によって出された。
お嫁さんの手作りご飯を強請って、駄々を捏ねる陛下が、またもや休みをもぎ取ろうと頭を光らせながら、作戦を練っていることを知る者は居ない。


おしまい。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

1. 電球陛下

番外編(?)です

ある王国の光る王様の物語。
~王宮電飾編~




ここ、白陽国では、今日も政務室から怒声と共に眩しい光が漏れていた。

「報告書を上げるのに、一体何時まで掛かっている!
さっさと仕上げて持って来いっ!!」

カッと眩く光りながら、陛下の叱責は続く。
官吏達は、グラサンの奥の眼を瞑りながら、低頭している。
本日も、陛下の光彩は、容赦なく辺りを照らしていた。
だが、その消費電力は、大幅に下がっていた。

先日、王宮お抱えの職人が、陛下の側近に命じられ、大幅な改良を施したのだ。
側近曰く、あまりにも消耗が激しいので、もう少し長持ちさせられないか―――と。
そうして、職人は頭を悩ませつつ、懸命に試行錯誤を繰り返し、新しい電Qを完成させた。
明るさはそのまま、だが、寿命は長く、消費力もぐっと抑えた。
しかも、今度は割れにくいという、かなり優れものだ。
通称、得良出(エルイーディ)。
この改良された電Qを使用するようになってから、格段に経費が削減できた。
最初に掛かった開発費も、直ぐに元が取れるだろう。
側近は内心ホクホクだ。
陛下も、今までより交換期間が長く、電力消費が低い為か、絶好調だ。

そんな中、陛下の電力…もとい、やる気を更に上げてくれる存在が、現れた。
「失礼致します」
柔らかな声で、静々と執務室に入ってきたのは、陛下唯一の花。
淡い桃色の衣装で、優雅に裾を捌きながら(側近姑特訓成果)、団扇で顔を隠し(万が一の発光避け)陛下の傍まで近づく。
「ああ、待ちかねたぞ、我が妃よ」
途端に、陛下のワット数が下がり、光が柔らかくなる。
どうやら、色味も切り替えられるようだ。(昼光色、昼白色、電球色)
「お仕事のお邪魔ではありませんか?」
慎ましい妃の言葉にも、陛下はほわほわ光りながら、引き寄せる。
「君が傍に居てくれた方が、捗ると言うものだ」
「さ、然様でございますか。
でも、皆様のお邪魔をしてはいけませんので、私はあちらに座って見守らせて頂きます」
夕鈴は、そそくさと何時もの席に向かおうとするが、何故か陛下が付いてくる。
椅子まで手を取り、優雅にエスコートしつつ、仲良し夫婦を見せつけようということか。
「もう少しで、区切りが着く。そうしたら、別室で休憩にしよう」
「はい、陛下」
夕鈴は、にっこり妃笑顔で答える。陛下の後ろから見える、側近の鋭い眼差しに耐えながら。

机に戻った陛下は、早速昼光色で、仕事を再開する。
書簡を広げ、担当者を呼び、あれこれと確認を取りながら、指示を出す。
ワット数は、実質40でも、効果は60wという明るさだ。
今日も、官吏達はサングラスを外せない。



仕事が一段落したのか、陛下が夕鈴を誘う。
「さて、妃と暫し休憩を取る。私が戻るまで、書簡と共に、資料を揃えておけ」
そう言いおくと、陛下は夕鈴を抱き上げた。
「陛下っ。歩けますから、降ろして下さい~」
ワット数は低く、改良された為か、前よりは熱くないが、それでも至近距離は眩しい。
袖で顔を覆いながら、夕鈴はジタバタともがくが、陛下はさっさと休憩室へ向けて歩き出した。


結局、庭の見える休憩室まで運ばれてしまった。
勿論膝抱っこである。
「陛下、お茶を入れられませんので、話して下さい」
何とか拘束から逃れようと、夕鈴はお茶をダシに離れようとする。
だが、陛下はますます拘束を強めた。
「茶なら、女官に入れさせれば良い」
「わっ私が入れます!入れさせて下さいっ!!」
「私の妃は、そんなに私から離れたいのか?」
「い、いえ!そうではなく…陛下に入れるお茶は、私が入れたいと…」
仲良し夫婦アピールも兼ねて、夕鈴は必死に言い募る。
それが功を奏したか、陛下の腕が緩んだ。
「君が私の為にと言うなら、仕方ない」
出力20wの柔らかい電球色で、機嫌よく引き下がった。

漸く近くの眩しさから解放された夕鈴は、お茶を入れるべく、道具に手を伸ばす。
だが、まだ少し、目がチカチカしているようで、何度か瞬きを繰り返した。
陛下の傍に居る時は、常時サングラスをしていなくては、ならないかもしれない。
常時グラサンの妃ってどうなのだろう?
そんなことを考えながら、慎重にお茶を入れてゆく。
ふわりと薫るお茶が、夕鈴の気持ちを鎮めてくれた。

ゆったりとした時間が流れる。
冬囲いの済んだ庭は、何処か凛とした風情を湛え、針葉樹の木々が、眼を和ませてくれる。
暖かい室内から、景色を楽しみながら、お茶を楽しむ国王夫妻(仮)。
側に控える侍女達も、にこやかに見守っている。

「そうだ、妃よ。今夜は街で花火が上がる。丁度、中庭の四阿から見れるはずだ」
「花火ですか?!素敵ですね。では、暖かくして準備しておかないと」
夕鈴が楽しげに笑う。
火鉢と、風よけの屏風、勿論防寒具もだ。
あれこれと必要なものを思い浮かべる。
「今日は早めに帰る。夕餉を一緒に摂ろう」
「はい、陛下。お待ちしております」

うまく話が付いたところで、側近が迎えに来た。
「失礼致します、陛下。そろそろ執務室へ、お戻り下さい」
「わかった。では、妃よ。君と離れるのは辛いが、今夜の為にも、さっさと仕事を終わらせてくるとしよう」
「はい。頑張って下さいませ。私は、夜の為に、準備をしておきますね」
にこやかに妃笑顔を浮かべて、夕鈴は陛下を見送った。


側近を連れて執務室に戻った陛下は、休憩前より更にパワーアップして書類を裁き始めた。
出力は100wと抑え気味だが、時々昼白色で光彩を放ち、官吏を叱責しながら進めていく。
その速さに、官吏達も必死だ。
サングラスをかけた者達が右往左往する。
なかなかシュールな光景だが、これが当たり前になると、誰も異様に思わない。
慣れというのは、感覚を麻痺させるものだ。


日も暮れ、官吏達も疲労困憊になった頃、その日の政務が終了した。
意気揚々後宮へ帰る陛下の後には、漸くサングラスを外し、ぐったりとした官吏達の疲れた姿があった。





約束通り、陛下は夕餉を妃の部屋で摂った。
今夜の花火の話で盛り上がる。
「色々上がるらしいよ。色も豊富だし、職人達が技を競い合うから、形も様々だって」
人払いをしたので、陛下も小犬の口調で、ほわほわ光りながら、愉しげだ。
「そうなんですか。楽しみです!四阿の方も、色々持ち込んで、ご用意しておきました」
老師に相談し、女官にあれこれ運んで貰い、準備は万端だ。
あとは、花火が上がるのを待つだけ。
ウキウキとした国王夫妻(仮)は、楽しい夕餉を過ごした。



日もすっかり落ち、すっぽりと闇が全てを包んだ頃、陛下と夕鈴は、連れ立って四阿へと行った。
陛下が60wの昼白色で明るいので、松明や手燭は、一切不要だ。
こういう時は、便利よね。
と、夕鈴が思ったかどうかは、分からない。

準備の整った四阿は、風よけの布が掛かり、屏風が立掛けられ、いくつも火鉢が置かれて暖かかった。
椅子には毛皮が敷かれ、ひざ掛けもある。
宅の上には、酒とお茶、軽い軽食が用意されていた。
「準備は万端です!」
夕鈴は握りこぶしで宣言する。
「うん。凄いね」
嬉しげに陛下がほわほわと輝く。
「花火は、何時からでしょうか?」
「もう少しで始まると思うよ。座って待とうか」
フカフカの毛皮の上に、並んで腰を下ろす。
「あの…陛下……」
「ん?何、夕鈴?」
ご機嫌な陛下は、柔らかい電球色に切り替え、チカチカと瞬いている。
「もうすぐ花火が上がるんですよね」
「うん、そうだよ。ここからだと、正面に上がるから、よく見えるよ」
当たりに灯りはない。
人払いをしている為、見える範囲に人影はない。
陛下の鼓動に合わせるように、トキメキを表すように眩しく輝く電Q。
甘い雰囲気、ではなく、眩しさに夕鈴は目を閉じた。

そんな中、突然無粋な客が現れた。
いかにも、といった黒尽くめの影が四阿を取り囲む。

「何故、この場所がっ?!」
「それだけ光っていれば誰でもわかるっ!」
「∑(゚Д゚)」

陛下のワット数は抑えられているとは言え、辺りに灯りはなく、夜であれば、特に分かり易い。
火の灯りではなく、眩しい程の白い灯りを探せば、そこに王が居るのだ。
見つけ易いといえば、その通りだろう。

「あ~あ。なんで邪魔するかなぁ」
声と共に、ヒュっと空気を裂く音が鳴る。
陛下の隠密が、嬉々として腕を振るい始めた。
勿論、陛下自身も、剣を抜いて身構えている。

早く片付けないと、花火が始まってしまう。
せっかくお嫁さんとの楽しい時間を潰されてなるものか!

いい雰囲気(と陛下は思っていた)所への、横槍である。
ムッとした陛下は、さっさと片付けよう、と昼白色に切り替え、ワット数を上げた。
「夕鈴」
一言、側に居る妃に声を掛ける。
名を呼ばれ、夕鈴は直様サングラスをかけ、袖で顔を覆う。
その間、一秒未満。実に手馴れたものである。

次の瞬間―――四阿周辺は、眩い光に包まれた。

陛下の電力最大出力(1000w)、360度攻撃だ。
一瞬で視力を奪われた刺客たちは、次々と浩大が捕縛し、駆けつけた警備兵に引っ立てられていった。

「李順を呼んで、背後関係を調べさせよ」
陛下は端的に命を下す。
明かりは昼白色のまま、ワット数は100まで落としたが、鋭い光で指示を出す。
そんな所へ、ドンっと大きな音が響いた。

花火が始まったのだ。
「あ…」
夕鈴がサングラスをずらし、空を見上げる。
色鮮やかな大輪の花が、夜空に咲き始めた。
だが、こんな騒ぎが起こってしまっては、呑気に花火見物などして良いものか。
夕鈴は戸惑いながら、陛下の方へ視線を戻す。
明かりはまだ、100より落ちていない。

「警備を厳重にせよ!ねずみ一匹入れるな!!」
陛下が激を飛ばし、警備兵が散らばる。
「あの、陛下。今日はもう、お部屋に戻ったほうが…」
花火は残念だが、陛下に何かあっては大変だ。
そう思ったから、夕鈴は眩しさに耐えつつ、サングラスを抑えながら言った。
「妃よ、せっかくこのように準備をして、花火も始まっているというのに、引き返すと言うか?」
「ですが……また刺客が来たら……花火より、陛下の方が大事です」
「本当に、私思いの妃だな。だが、心配は要るまい。警備も増やしたことだ。
せっかく用意した席が、無駄になってしまうのは、残念だろう?」
「うっ………でも…」
「ほら、花火が上がってるよ」
夕鈴に近づいた陛下は、明かりを落とし、小声で囁く。
ドン、ドン、と躰に響く音と共に、次々と花が咲く。
「さあ、妃よ。共に楽しむとしようか」
いつの間にか、陛下の膝上に抱かれ、もふもふのマントに包まれている。
いつもながらの早業だ。
こうなっては、もう何を言っても陛下は動かない。
仕方なく、夕鈴は大人しく、そのまま花火を見ることにした。
周りに侍女や侍官、警備兵が居るので、暴れるわけにはいかなかった。
陛下は、5wの豆電状態なので、眩しくも熱くもない。
至近距離でも大丈夫だ。
夕鈴は、掛けていたサングラスを胸元に仕舞う。またいつ使うか分からないからだ。

国王夫妻(仮)は、他のギャラリーと共に、花火を楽しむことにした。


花火も最後の連打に入った頃、ふと夕鈴が呟いた。
「あの花火の光を、留めておけたらいいのに…」
「…夕鈴?」
「あ、いえ。何でもありません…」
自分の何気ない呟きを聞かれたかと、夕鈴は袖で口元を覆う。
「どうしてそう思ったの?」
陛下は耳元で聞く。本当に、どうやって声を出しているのか。
でも、それも突っ込んではいけない。
夕鈴が言い淀んでいると、更に促される。
「えっと、あれだけの光があれば、陛下が何処にいらっしゃるか、すぐには分からなくなるんじゃないかと……」
日が落ちた後は、あちこちで篝火や灯篭が点けられるが、電気の明かりは特殊だ。
だが、花火のように、あれだけ眩い光があれば、目暗ましくらいにはなるのではないだろうか。
夕鈴はそう思ったのだ。
だから、つい思ったことを言ってしまった。
まさか、自分の思いつきが、後日どんな結果になるのかなど、この時の夕鈴に分かるはずもない。

夕鈴の言葉に、陛下のワット数が上がった。
といっても、せいぜい10wだ。あまり上げては、熱さに夕鈴が離れてしまう。
「我が妃は、本当に優しいな。私の身を気遣ってくれるとは」
陛下が上機嫌で、ホワホワと光る。
そして、夕鈴の提案に(提案したわけじゃない)思考を巡らせた。


後日、王宮お抱えの電球職人に、新たな仕事が言いつけられた。
陛下同様の得良出(エルイーディ)の小さい型を、大量に製作せよ、と。


ひと月後、王宮では、毎夜イルミネーションが灯され、その明かりは街からも見える程で、白陽国の新たな名物となった。
そんな中、陛下の側近は嵩む電気代に頭を抱え、どう経費削減をするべきか、悩むのだった。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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