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4 繋ぐ……連想-2

7.飛燕 さくらぱんcolor

おりざ
(イラスト☆おりざ)



汗ばむ肌に、髪が張り付く。
爽やかな風が、髪に孕む季節が嬉しい。
そんな春の終わり。
 
夕鈴は、晴れた空の下
風に乱れる髪を抑えながら、
後宮の四阿に、ハシゴを立てかけ登りはじめていた。

「おやめくださいませ!
お妃さま!

落ちたら大変です!
お怪我をなされたます!
おやめください!」

夕鈴の様子を見守る侍女達は、いちように顔を青ざめ
オロオロと夕鈴の登るハシゴを見つめて、幾重にも取り囲む。

「大丈夫よ!
ほら、もう少しで、手が届く……」

「…きゃあ!
お妃さまっ、片手を!

危ないです。
おやめくださいっ!」

「もう…大げさなんだから…
大丈夫よ!」

夕鈴は、さらに片手を伸ばし……
ハシゴから身をのり出した。

何人かの侍女が、見ていられないとその場に倒れ、
他の侍女が懐抱する…

後宮の四阿は、今や
ちょっとした大騒ぎだった。


  


事の発端は、些細な変化。
問題の四阿でのこと。

甲高いヒナ鳥の鳴き声に気付き
夕鈴が、辺りを見渡すと……
ツバメの巣があった。

土塊でできた巣に、

…一羽、

……二羽、

………三羽。

可愛らしい大きな黄色いクチバシが、
親鳥が来るたひに、大きな口を開けて
我先に… 餌をねだる。

“お腹空いた”

“お腹空いた”

と、親鳥に鳴いていた。

よく耳を澄ますと、その声は足元にも…
一羽の小さなヒナが、巣から落ちて、地面で弱々しく鳴いていた。

「可哀相に……
巣から落ちたんだわ……。
誰か、ハシゴを持ってきてください。」

すぐに、侍女はハシゴを持ってきてくれたが……
誰一人ツバメのヒナを、手にとる勇気を持つ侍女は、居なかった。

……ヒナをこのままに、しておけないわ……

仕方がないので夕鈴が、ヒナを片手にハシゴを登りはじめる。
市井出身の彼女にとって、こんなことは容易なことだった。

だけど、それを知らぬ侍女達は、肝を冷やした。

狼陛下が大事にしている唯一無二の妃に、
万いちが、起こったら首を、跳ねられるかもしれない!

「お妃様っ~~」

見ていられないっ。

  



「……あと、ちょっと!」

「………んぅ」

「ああ……ようやく戻せた!」

夕鈴の手元から、ようやくヒナが巣に戻った。
近くの枝に、親ツバメが、ジッ……と、夕鈴の様子を見ていた。

「……もう、落ちちゃダメよ」

夕鈴は、巣に戻ったヒナに微笑むと、ハシゴの上でハッ…と、息を呑んだ。

後宮の宮殿から、走り寄る人影……

ーーあれは。

「何事だ!
何の騒ぎだコレは?」

騒ぎを、聞きつけて来たのだろう……
陛下だった。

「夕鈴っ!
危ないではないか! 」

四阿に立てかけられたハシゴの先に、
夕鈴の姿を見つけると陛下は顔を青ざめた!

…ヤバい…
見つかった……

夕鈴は、大きな声に驚き…
身を竦ませた。

その時……

……ぇ?

「危ないっ!」

キャアアアーー!

在るはずの場所にハシゴは無く…
夕鈴は足を滑らせた


……
………
…………


そのまま ハシゴから、落下する。

じ・・・地面に落ちるっ!

夕鈴は、そう思いながら、ギュッと瞳を瞑った。
ところが、なかなか地面に落ちない。
痛みも無い。 代わりに

……ポスン。

柔らかなものに、包まれた。

それが、何かを確かめたくて…
でも…夕鈴の予想どおりなら、そんなこと怖くて確認できない。

ギュッと瞳を閉じたまま……
ジッ…としていると。

「大丈夫か、夕鈴!?
……怪我は無い?」

心配そうな陛下の声。
その近過ぎる距離に驚き、パチリと瞳を開けると、
至近距離で見つめる赤い瞳とかちあった……

「夕鈴どこか怪我をしたのか?」

もう一度囁かれた陛下の声が、少し震えていた。

バツの悪い思いで、夕鈴は陛下を見つめた。

……また、陛下に心配かけちゃった。
この件が、李順さんにばれたら、叱られるわ……

「陛下、助けてくださってありがとうございます!
怪我はありません……」

その言葉を聞いた陛下は、ホッと肩の力を抜くと…
少し、声を荒げて怒り出した。

「なぜ…ハシゴなんかに上るんだ…」

「君が、ハシゴから落ちた時、生きた心地がしなかった…」

陛下に、ギュッと強く抱き締められた。
それだけ心配をかけてしまったと分かるだけに、
夕鈴は、益々申し訳なく思う。

素直な言葉が、言葉にでた。

「陛下、申し訳ございません。」


その様子を見ていた侍女達は、怪我も無く無事な主の様子を確認すると
ホッとした。
仲むつまじい国王夫婦に、微笑みあい、お互いに頷くと
心得たようにススッ……と、音もなくその場を離れていった。

辺りは、シン……と静まり。
四阿には、陛下と夕鈴だけが残された。

…トクン。

……トクン…。

力強く脈打つ、陛下の心臓の音がする。
夕鈴は、陛下の胸に凭れながら…
陛下の規則正しい心音を聞いていた。

もう、そんなに強く抱き締められているわけでもないのに…
夕鈴は動けなかった。
陛下の腕の中で大きな安らぎと安心感を感じていた。




「何故……こんなことをしたの?
私が気づかなければ、地面に落ちていたよ!」

「ツバメの雛が、巣から落ちていたんです。
巣に返そうと、思って……」

「…………。」

「雛は、無事に返せたのですが、
その後、あのようなことに!」

「君が無事で、良かった!」

「まさか落ちるとは、思わなかったんです……
下町では、平気でしたから……」

落ちた瞬間を思い出したら…急にゾッと寒気が走った。
そのまま……カタカタと膝が笑う…

本当に、陛下に助けて貰わなかったらどうなっていたんだろう?

助かって良かったと実感する程に
身体の震えが何故か止まらない。

夕鈴は、心を込めてお礼を言った。

「陛下、助けてくれてありがとうございます!」

「うん。
間に合って、良かった!」

震えが止まらない身体を、陛下が強く抱き締めてくれた!

「もう大丈夫だからね。」

小さな子供をあやすように、髪を撫でられた。

心配かけちゃたな……

優しい陛下の言葉に申し訳なさで、キュウンと胸が痛くなる。

「もう無茶はしないで…
私の命が、幾つあっても足りないから……」

狼陛下の声で、囁かれた切ない懇願の声に、
夕鈴は、気づかなかった。




「…ごめんなさい。」

まだ微かに震えてる両手で、陛下を抱き締めた。

「もしも君が怪我をしたら、
私が、悲しむことを覚えておいてくれ」

「……陛下。」

風が、強く吹いている。
夕鈴の身体の震えは、なかなか止ってくれない。

陛下は、夕鈴の震えが止まるまで、ずっと優しく抱き締めてくれた。

ツバメが空を飛びまわる。
幾度も、訪れる親鳥のように……

何度も、陛下は夕鈴に唇を重ねた。

「約束だ……
もう、無茶はしないで……」

季節の終わりと共に
新しい季節が訪れる。

彼女が、助けたツバメは、
無事に南の国へと旅立つのだろう。

いつか、君も。
手離さなければ……

だけど……まだ、それは先の話。
それまでは、私が守るよ。

君は、私の唯一無二の妃。
狼陛下の花嫁なのだから。
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  • 2014年04月20日 (日)
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