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2. 電Q☆現代パラレル  

電Q現パロ3 ~狼の正体編~

閑静な住宅街の中に、最近高級マンションが建った。
オートロックは勿論、1階ロビーには、コンシェルジュが常時待機している。
医療機関とも提携しており、医師や看護師、介護士も揃っている。
フィットネスクラブもあり、住人は無料で使用できる環境だ。
所謂、お金持ちの入る、億ションだ。

そのマンションの最上階に、黎翔はひと月前に、越してきた。
ワンフロア丸ごと1室、7LDKの広さを持つ部屋だ。

今、そこには黎翔ともう一人、あどけない顔をして、狼の巣に入り込んでしまった少女―――夕鈴が居た。


黎翔がコンビニ通いを始めてから、数か月。
常連となった彼に、夕鈴も徐々に打ち解け、軽く会話を交わすようになった。
そのうちに、いつも非常食やお弁当などを買う彼に、つい言ってしまったのだ。
家でご飯を作らないのかと―――。
到底、自炊するようには見えない黎翔だったが、作ってくれる人は、居そうに見える。
だが、彼はあっさり否定した。
しかも、いつの間にか、夕鈴がご飯を作って持っていくことになってしまっていた。
なんで?!私はただ、コンビニ弁当ばかりじゃ身体に悪いと思っただけなのに!
コンビニに勤めながら、そんな事を思っていいのかはさて置き、こうして兎は狼の巣へ行く羽目になった。



「……………」
夕鈴は、初めて入るマンションの部屋に、圧倒されて声も出ない。
マンションの敷地に入るのにも、ロビーで黎翔の部屋を呼び出すのも、迷いに迷って、漸く突破したのだ。
だが、ロビーまで迎えに来られ、部屋へと案内されて、ドキドキしながら玄関のドアを潜り、奥へと案内されるが、回れ右をしたくなった。
自分の視界に入る物を、受け入れたくない、と脳内が拒否反応を起こしているようだ。

何これは?! どうしてシャンデリアなんてぶら下がってるのよっ!
家具もお高そうなものばかり。ああ、何か光ってる~。
フローリングに映る自分の姿が見えるようだ。
手にしたお惣菜の入った紙袋を抱えながら、夕鈴は逃げ出したくなった。
何か、すごく場違いなんですけどっ!!
そんな夕鈴の葛藤を知ってか知らずか、懐に入ってきた兎を、黎翔は笑顔でソファへと押しやる。
「来てくれて嬉しいよ。さ、座って。今何か、飲み物を持って来るから」
「へ?え?い、いや、お構いなく!これを渡しに来ただけですから!」
慌てて袋を差し出すが、黎翔はすぐに受け取らない。
「ああ、本当に持って来てくれたんだ」
「う。その、約束しましたから…。あの、でも、本当に、普通の庶民料理で…済みません」
何故か謝ってしまう。
こんな超高級マンションに住んでいる人なら、外で幾らでも美味しい物を食べられるだろうし、料理人を雇っていても、可笑しくない。
そもそも、コンビニなんかに買い物に来ること自体が変ではないか?
夕鈴はグルグルとしながらも、そんな事を考えた。
「そんな事ないよ。家庭料理なんて、久しく食べてないからね。嬉しいよ」
にっこり笑う黎翔に、子犬の耳と尻尾が見えるのは、幻か。
「一応、3日分くらいは、あるかと思うんですけど、食べる時は温めて下さいね。
あ、取り敢えず、今は冷蔵庫にでも、入れて置いて下さい」
そう言って、袋を手渡す。
「うん、分かった。じゃ、ちょっとしまってくるから、夕鈴は座って待っててね」
漸く受け取った黎翔は、夕鈴をソファへ促す。
「いえ、物はお渡し出来ましたし、これで失礼します」こんな高級な空間、居た堪れない!と夕鈴は既に逃げ腰だ。
「駄目だよ。せっかく来てくれたのに、お茶くらい、飲んでいって」
何の拘りなのかは知らないが、黎翔はそう言ってさっさとキッチンへと向かった。
そうなると、勝手に居なくなることも出来ず、夕鈴は仕方なく、勧められたソファへと、怖々腰を下ろした。
ふわりと受け止められた革張りのソファは、柔らかく、でもそれなりの弾力があって、心地いい。
夕鈴は浅く腰掛けながらも、落ち着かなく、視線をあちこちへ向けた。

広いリビングは、柔らかい色調で纏められており、置かれている家具は必要最低限ながらも、木目も美しい、高級感溢れるシンプルな造りだ。
男の人に有りがちな、威圧感のある、濃い配色ではなく、ベージュや生成りといった女性が好む配色だ。
何となく、黎翔自身はこういった物に拘らない気がするが、そうすると、誰の好みなのか。
そわそわと落ち着かないまま待っていたが、やはり居た堪れなくなって、夕鈴は勢いよく立ち上がると、黎翔が向かった先へ、そっと足を運んだ。


続き間のダイニング――――こちらも、何人座れるんだと言わんばかりのテーブルセットが鎮座していた――――の端を通り、その先にあるキッチンを目指す。

カタ、カタ、と音のする方へ、夕鈴が顔を覗かせると――――あちこちの開き戸や引き出しを開けっぱなしにしたまま、何やら探し物をしている黎翔が居た。
「……あの…」
そっと夕鈴が声を掛けると、驚いたのか、ぱっと黎翔が振り返る。
「あ…勝手に御免なさい。でも、あの、本当に、もう帰りますから、気を使わないで下さい」
「ええ~もうちょっと待っててよ。コーヒーでも入れようかと思ってたんだけど、夕鈴はコーヒー苦手だったよね?だから、紅茶を入れようとしたんだけど、何処に片付けられたのか、分からなくてねー」
あちこちを覗きながら言う黎翔の背中を見ながら、買ってきて、片付けてくれる人が居るんだ、と夕鈴は冷静に聞いていた。
「ねえ、主婦の勘?とかで、分からないかな?」
ちょっとおどけた様な口調で黎翔が促す。
それに釣られたように、夕鈴は足を進めた。
広いシステムキッチンは、汚れひとつなく、綺麗に片付いていた。
大きな食器棚には、種類は少ないながらも、数の揃った食器が並び、様々なグラスが、光を反射させている。
大きな冷蔵庫は、静かに鎮座しており、電化製品も、一通り揃っていた。
オール電化のコンロに、広いシンク。備え付けの収納棚は、使いやすい構造だ。
ぐるっと見回した夕鈴は、食器棚の下の方の開き戸を開けてみた。

棚の中、上段に、有名メーカーの紅茶の缶が、あった。
「これ…だと思うんですけど」
口の開いていない缶を取り出し、黎翔に手渡す。
「うん、流石だね。一発で見つけられるなんて」
にこやかに笑って、黎翔は受け取る。
「えーと。ポットに入れて~」
夕鈴の目の前で、大きなポットの蓋が外され、紅茶の缶から、ざばっと葉っぱが投入された。
「ええっ?!ちょっ…ちょっと待って下さい!」
「え?どうかした?」
あまりのダイナミックさ――――と言っていいのか―――に、思わず夕鈴はストップをかけた。
「あの…今までお茶を入れたことは……?」
恐る恐る聞くと、目の前の小犬然とした青年は、フルフルと首を振った。
駄目だ…。
夕鈴はがっくりと項垂れた。


「お茶を入れる時は、温度が大事なんです」
結局、夕鈴の俄かお茶入れ講座が始まった。
湯の沸かし方、ポットや茶器の温め具合、お茶の蒸らし時間など、黎翔に遣らせながら、事細かに教えていく。
「後は、入れる時に、飲む人の事を考えて、美味しくなりますように、って…」
言いながら顔を上げると、微笑む黎翔と目が合った。
ぱっと夕鈴の頬が赤くなる。
「あっと、最後のは、いいです!気にしないで下さい!」
赤くなって慌てている夕鈴を見て、黎翔はふわりと笑う。
「大事なことなんでしょ?飲む人の事を考えて、美味しくなりますように…だっけ?」
優雅な手付きで、温まったカップに紅茶を注ぐ黎翔の動作に、ほっと見惚れる。
「さて、先生の採点はどうかな?」
コトリと夕鈴の目の前に、ティーカップが置かれた。
作業台の傍にも置かれていた椅子が引かれる。
どうぞ、と促されて、夕鈴はおずおずと腰を下ろすと、そっとカップを持ち上げた。
口元へ持っていくと、ふんわりと芳香が鼻を擽る。
一口含めば、程よい熱さと、円やかな味が口内に広がった。
「…美味しい……」
呟いた言葉に、夕鈴の表情を窺っていた黎翔が、嬉しそうに微笑んだ。
「良かった。どうやら、合格点を貰えたようだね」
「とっても美味しいですよ。ご自分でも、飲んで見て下さい」
夕鈴に勧められ、黎翔も自分の分を注ぐと、そっと口を付けた。
「どうですか?美味しいでしょう?」
にこやかに笑って聞いてくる夕鈴を見て、黎翔も笑みを浮かべる。
「うん。でも、美味しく出来たのは、夕鈴の教え方が上手だからだね。それに…美味しいと思えるのは、夕鈴と一緒だからじゃないかなぁ」
「んなっ?!そ…そんな事ないですよ!こっ、こんなの、やり方さえ分かっていれば、誰でも美味しく入れられますからっ!!」
夕鈴は真っ赤になって、わたわたと手を振り回し、焦って言葉を紡ぐ。
「えーそうかな?好きな子と一緒に味わえば、美味しさも増すんじゃない?」
「へ?は?好きな…って」
夕鈴は益々真っ赤になって挙動不審になってゆく。
落ち着け、落ち着け。えーとえーと、これは一般論よ!家族とか友達とか、好意のある人と一緒に食事したりすれば、一人よりずっと美味しく感じられるってことよね!
夕鈴はぐるぐるしながらも、何とか着地点を見出した。
「そうですね!私も、一人より、友達や家族と一緒のご飯の方が、美味しいと思います!」
「え?いや、そうじゃなくて……」
「あ、もし、どなたか一緒にお食事される方がいらっしゃるんでしたら、持ってきたお料理じゃ、足りないかもしれませんね。御免なさい。一人分のつもりで、持って来てしまいました。3日も持たないですね。どうしよう。また明日にでも、追加した方がいいですか?
あ、でも、こんな庶民料理なんか出したら、恥ずかしいですよね。もうちょっと、見栄えのするものを考えて作ってこれば良かった…」
黎翔の否定も流し、夕鈴は捲し立てる。
「いや、誰か来ることもないし、食べるのは僕だけだけど…また、作ってくれるの?」
何とか体制を建て直し、夕鈴の言葉尻を捉えて、次の機会を得るべく、黎翔は突っ込んでいった。
「えっと…でも、私の作る物なんて、本当に似たり寄ったりの、庶民料理でしかないですし、どなたか作って下さる方が、いらっしゃるんじゃないですか?」
「居ないよ、そんなの。前にも言ったでしょ」
そう言われても、夕鈴は今一納得できなかった。
「夕鈴のご飯、食べられたら嬉しいんだけどな」
小犬の耳と尻尾が、おねだりをしている。
「えっと…じゃあ、偶になら……」
小犬のきゅるりん攻撃に弱い夕鈴は、結局絆されてしまった。
「本当に?嬉しいなぁ。あ、勿論材料費は出すし、良かったら夕鈴もここで食べていけばいいよ。うん。沢山作ってね」
幻の尻尾を振りながら、黎翔はちゃっかり話を進めていく。
夕鈴は困った顔をしながらも、こんなに喜んでいるのに水を差すのも気が引けて、黙ったまま、紅茶を啜った。

視線を泳がせていた夕鈴の視界に、ある物が目に入った。
それは、壁に掛かっていた時計。
その針の位置を認識した瞬間、夕鈴の眼が、かっ!と見開かれた。
「嘘っ?もうこんな時間?!」
お茶の入れ方を教えるのに、思ったより時間を喰っていたようだ。
キッチンは窓がなく、外の様子が分からない。煌々と点いている電気で、時間など分からなかった。
慌てだした夕鈴を見て、浮かれていた黎翔が、耳と尻尾を引っ込めた。
「あの、長居しちゃって御免なさい!私そろそろ帰ります!」
言われて、黎翔も時計に目を向けた。
そろそろ、日が暮れる時間が近くなっていた。
「そっか…そうだね。あんまり遅くなっても、家族が心配するだろうし」
普段は押しの強い黎翔も、時間を確認すると同意し、夕鈴は慌ただしく、食器を片付け始めた。
「ああ、良いよ。僕が片付けるから」
「いえ、すぐに終わりますから、やらせて下さい」
「大丈夫だよ。そこに置いておいてくれれば、後でやるから」
「ポットとカップだけですから、本当にすぐ終わります。任せて下さい」
言い合いながら、二人の間で食器が揺れた。
と思った瞬間、カップがソーサーから滑り、宙を舞った。
有名ブランドのカップは放物線を描きながら重力に従い、床に触れると、カシャーン、と硬質な音を響かせ、見事に砕けた。
一瞬で凍り付いたように動きが止まった夕鈴は、自分の手から飛んでいったカップの成れの果てを凝視した。

「―――うっぎゃあああああああああっ!!!!!!」
凡そ、若い女性の悲鳴とはかけ離れた雄叫びが、広がった。
「ごっ御免なさい!御免なさい!御免なさいーっ!!」
どどどどうしよう。これ1個、幾らくらいするのかしら?!今月のお給料は、もう支払に回すのが決まっているのに―――。
半泣きの顔で、夕鈴は欠片を拾おうと屈んで手を伸ばした。
そこへ、ふわりと大きな手が被さる。
「危ないから、触らないで。大丈夫。すぐに片付けるから」
柔らかな声が、頭上から夕鈴を止める。
涙目でふり仰げば、黎翔がじっと見つめていた。
「ご…御免なさい。弁償しますから~」
じわっと涙が浮かび、夕鈴はひたすら謝る。
「気にしなくて良いよ。夕鈴が悪いわけじゃないんだから。ゴメンね。折角片付けようとしてくれたのに、僕が引っ張ったりしたから…」
「いいえ!私が悪いんです!本当に、弁償しますから」
フルフルと顔を振って、なおも言い募る夕鈴の眼尻に溜まった涙を、黎翔は親指で優しく拭う。
「本当に、大丈夫だよ。カップは他にも沢山あるんだし。それより、怪我してない?破片は中らなかったかな」
「大丈夫です。あの、箒と塵取り…なんて、ないですよね……」
この超高級マンションの部屋から、その組み合わせが出てきたら、ある意味レアな場面かもしれないが、残念な事に、掃除機しか出てこなかった。
夕鈴が密かに見てみたかったルンバではなく、水分も吸い取れる、業務用のりっぱな物だったが。

「本当に、後は僕がやるから、帰る支度をするといいよ。家まで送ってあげるから」
「いえ、このままにしておくのも、気になりますので、最後まで片付けて行きます!」
徐々に、落ち着かない所作を見せ始めた黎翔に気づくこと無く、夕鈴は眼の前の残骸を片付ける。
大きな破片は、丁寧に拾って紙に包み、後は掃除機で隅々まで吸い取る。
細かい破片が、何処まで飛んでいるか分からないのだ。後でうっかり踏んでしまっては大変、と広範囲を掛けてゆく。
「夕鈴、もういいよ。そろそろ出ないと、日も暮れるし、ね?」
「あ、はい。でも、あと洗い物だけですから。やってしまいますね」
「いや、本当にもう良いから!」
先程まで、にこやかに夕鈴を構っていた黎翔が、今度は何故か、早く帰らせようとしている。
「あの、やっぱり、どなたかいらっしゃるんですか?」
「いや、そうじゃないんだけど…」
歯切れの悪い黎翔の態度に、夕鈴の方が色々想像してしまった。
「うーん。やっぱりまだ話すのは早いような気がするし……」
ブツブツと黎翔が、呟いているが、夕鈴の耳にはもう届いていない。
「分かりました。では、申し訳ありませんが、これで失礼しますね」
自分の中で、何やら結論付けた夕鈴が、先に動いた。
「あ、うん。ゴメンね、色々やらせちゃって。今送っていくから」
「いえ、まだ時間も遅くありませんし、ちゃんと帰れますから、大丈夫ですよ」
「でも、これから家でやることあるんでしょ?時間気にしてたし」
「本当に、お構いなく。帰ってやることなんて、ご飯支度くらいですから。
却って、こんなに長居してしまって、済みませんでした」
「そんな事ないよ?!来てくれて嬉しかった。ご飯もね、有難う。後で頂くね」
「あ、はい。お口に合うか、分かりませんが、あの、不味かったら、処分して下さって構いませんから…」
「とんでもない!全部、ちゃんと食べるよ!」
夕鈴の言葉に、黎翔は全力で否定する。

二人はキッチンからダイニングへと移動し、そこから居間へと移る。
ソファの傍には、夕鈴のバッグが置いてあった。
居間の南側は、大きな窓だ。レースのカーテン越しだが、外からの光はもうかなり弱く、空の色は薄紫色へと変化していた。

バッグを肩に掛け、玄関へ向かおうとした夕鈴に、黎翔がまた話しかけた。
「あのね、夕鈴。今度また、来てくれるかな?」
「へ?な、何でですか?」
「うん…実は、夕鈴に聞いて貰いたい事、というか、話したいことがあって、ね」
「はぁ…」
今一要領を得ない黎翔の言葉に、何なのか、と思うも、分かるはずもなく。
今ここで、簡単に終わる話ではなさそうだ、と感じ、夕鈴は取り敢えず、了承した。

「あ、あと、カップはちゃんと、弁償しますから、あの、メーカーさんのお名前、教えて貰えますか?」
少し恥ずかしそうに、顔を赤らめ、上目遣いで聞いてくる夕鈴を目の前にし、黎翔の左手がぴくりと反応したのは、無意識か。
「御免なさい。私、ブランドとか詳しくなくて…あの、今度同じの買って持ってきますから。
あ、でも、今月はちょっと、厳しくて…来月になっちゃかもしれないんですけど!」
「弁償なんていい、て言っただろ?気にしないで。それより、時間がないから、早く行こうか」
来た時とは打って変わって、黎翔はまるで追い立てるように、玄関へ向かわせる。
夕鈴がシュン、としたのを見て、黎翔が慌てる。
「急き立てて御免ね。ちょっと、急用を思い出しちゃって…」
下手な言い訳だと思ったが、黎翔としては、そうでも言うしかない。
まだ、彼女に何の説明もしていないのだから―――。

黎翔の慌てぶりに、夕鈴も愚図愚図している場合ではない、と思ったのか、そそくさと玄関へ向かった。


無駄に広い玄関で、ソファに座りながら、ブーツを履く。
こんな時に限って、手間の掛かる靴を履いてきてしまった。
おまけに、焦っているせいか、チャックが噛んでしまい、尚更に焦る。

「あ、やばい。もう駄目かも…」

不意に後ろから言われた言葉に、夕鈴はふと顔を上げ、振り向いた。
途端に、後ろに立っていた黎翔の顔が、ポワン、と輪郭が歪んだと思ったら、次の瞬間、何故か其処には見慣れた物体が乗っていた。


「え?れ…黎翔…さん?あの…その被り物は……」
夕鈴の眼には、黎翔の顔が在った場所に、煌々と輝くものが映っていた。
自宅のあちこちで、よく目にする形だ。生活に密着していると言ってもいい。

何時の間にこんな被り物を…いや、しかし、彼はこんな事をするようなキャラだったか。
それにしても、良くできている。
眩しいながらも、眼を逸らす事も出来ず、夕鈴は思いっきり凝視していた。
「あ~間に合わなかった……。これ、ね。被り物なんかじゃなく、見た通りのものなんだよね」
肩を落とし、目の前でほわほわ光る物が、何か喋った。
声は間違いなく、黎翔のものだ。だがそれに、口らしきものは、見当たらない。
「えっと…。良くできてますね?何か…催し物に、使われるんですか?」
見た感じ、首元は服の襟で、どうなっているのか見えない。
被り物としては、視界や呼吸は大丈夫なのだろうか。
仕組みが良くわからない夕鈴は、目を細めながら、無意識に手を伸ばしていた。

触れた瞬間は、温かいと思った。まだそれ程熱くなってはいないのだろう。
が、くっと力を入れても、それは動かない。
「…夕鈴、無理だよ。これは今、完全に身体と繋がってるからね。僕の頭になってるんだよ」
尚も、黎翔が否定し、且つ説明をする。

「繋がっている…?頭?」
それはつまり……。

「え?ええ?えええええええええええええっ?!」


本日二度目の雄叫びだった。



嘘でしょう?そんな事って……。
黎翔さんの頭が……頭が………電球だなんてっ!!

有り得ない―――――――っ!!!!!!!!


夕鈴の中で、何かが振り切れた。
すうっと意識が遠のく。
「うわっ、夕鈴!ちょっと!!」
黎翔の焦った声がするも、既に夕鈴には届かない。
落ちた瞼の向こうが、やけに眩しく感じた。








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  • 2014年03月31日 (月)
  • 09時04分24秒
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